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豊かな国貧しい国

今から4年前にシンガポール人の友人から彼の娘が高校卒業の記念に香港に行くから食事に連れて行ってくれないか?と頼まれたことがある。なんでも日本料理が大好物なのでアンタの行きつけの店で寿司を奢ってくれないかね?というのだ。彼は親しい友人だったし、なにより18歳の娘さんとの食事だから楽しいに決まっている。それで早速筆者が一番美味いと思うワンチャイの寿司屋を予約した。

現れたのは名門シンガポール大学に進学が決定している友人の娘と、もう一人これまたシンガポールの名門理工大学に合格した才媛である。専攻科目を聞くと両者とも二人ともアカデミズム系よりもより実践的なコースなので将来のビジネス・エグゼクティブの卵ととうことだが、不思議なのは多弁な知人の娘が自分の将来の話になると急に黙りがちになる事であった。

それで授業には全く出ずに映画と海外放浪に費やした筆者の大学時代の話をしていたのだが、相手は「そんなに遊べて羨ましいですね」とか言うばかりで大学の話はやはり話が続かない・・。それで筆者は「あなたは海外の大学に行きたかったのか?」と聞いたところ、この瞬間に知人の娘は顔を上げて「私は絵をやりたかったのだ」という話を始めた。

なんでも彼女は子供の頃から絵を描くのが大好きで、ヒマを見つけては紙に何かを書きなぐり、長じては油絵セットを買って貰いカンバスに自分のイメージしたことを描いてきたのだと言った。へえ・・それは素晴らしい趣味だね?とお世辞を言った筆者に、この小娘は「これが私の絵です」と言って携帯電話の液晶パネルを筆者に見せたのだ。





その絵を見た瞬間に頭の中に鐘の音が鳴り響いた。いや冗談ではなくそれはアマチュア画家の域をはるかに超えた作品で、それでちょっと失礼!と言って女房に見せると女房もアッ!と目を剥いてしまい、ついでに挨拶に来た寿司屋の大将に「これ見てよ!」とケータイを渡したら彼もすぐに固まってしまったのだ。

「あんた!絶対に絵の世界に進んだ方がいいぞ!」。あんまり美的感覚が優れている様には見えない大将でさえもそう叫んでしまったのだ。いや本当に大げさでなくこの絵がサザビーズとかクリスティーズのオークションにかけられましたとか、パリのポンビドーセンターに飾られても、おそらく誰も違和感を持たないほどの素晴らしい絵なのである。

「この絵はシンガポールの学生絵画展で賞を貰った作品なの」と恥ずかしそうな顔で呟いた後、実は絵画展の評議員たちもアートスクールに進むことを強烈に押したけれども私は諦めたのだ・・と悲しそうな顔をする。だったら今からシンガポール大学なんか行くのを辞めればいいじゃないか!と思ったが、ここにはシンガポール特有の事情があったのである。

国立シンガポール大学はイギリスのオックスフォードやケンブリッジ大学に追いつきかねないほどの勢いがあるが、その一方でシンガポールの芸術系大学はお寒い限りだと言うのである。何事もビジネス優先のシンガポールでは会計学や経営学、工学や理学にウェイトが傾きすぎていて、美術や音楽、それと文学なんかは軽視される風潮がいまだに根強いらしい。





そして知人の娘が不幸だったのは英語や数学など一般教科もなかなか優秀な成績を収めていたことで、将来は弁護士や公認会計士、あるいは経営コンサルタントになるべきだ!と周りが勝手に方向を決めてしまい、本当はアートスクールでデザインの勉強をしたいのだと何度言っても両親や叔父叔母など親戚たちから猛反対されたと言うのだ。

ちなみにこれが筆者なら「じゃあアンタ達とは縁切りします」と言って家を飛び出てしまうが、知人の娘は自分の将来に関する意思と押しの方は弱いところがあるらしく、それに「アートやデザインでは将来食べていけませんから」という親から聞いた決め台詞をそのまま受け入れてしまったのだった。

しかし齢50を超える日本人のオヤジたちなら、苦労して東工大や一橋に入っても案外とせせこましくて窮屈な人生を歩み、一方東京芸大とまでは言わなくとも日芸や多摩美、京都と金沢の工芸美大、それと千葉大の工業デザインを出た人間の方が手に職があるだけ選択肢の広い人生を歩んでいることはよくご存じのはずだ。

それに経済の成長と文化的な余裕というのはある一定のタイムラグがあるものの必ず相関関係があるもので、現在はビジネス一本やりのシンガポールでも20年も経てば文化的な土壌が花開くようになるわけだから、周りと違うことを今のうちやっていく方が得策でもある。





しかし流石にすべてを諦めて望まない学部に行く事を決めた彼女にそれを言うのは酷だから、その場では趣味として絵は続けるべきだ!とだけアドバイスしたのだが、その翌日彼女の父親、つまりシンガポール人の友人に「彼女は美術の世界に進ませるべきではないか?」と電話を掛けたところ、これが全く聞く耳を持たないのだ。

彼の場合はシンガポールがまだ貧しい時代に育ったことと、自分で働かなければ学業が終了できないほど貧乏な家に育ったことから、とにかく娘はホワイトカラーにするのだ!と言う思いで凝り固まっていて、子供も居ないお前が何を余計な口出しをしやがって!と物凄い剣幕で筆者に怒鳴りつけるので筆者も激高し、ついに彼とは半分喧嘩別れしてしまったのである。

シンガポールはもはや豊かになったのだ!というのが友人の口癖であったが、アカデミズムとビジネス工学のみが異常に発展しているかたわらで、美術や文学、音楽、芝居などの分野が遅れている国が豊かになったと言えるのだろうか?。今から30年前に日本人はエコノミック・アニマルと揶揄されたが、現在の香港やシンガポール人は正にこれに当たるだろう。

さて筆者が何でこんな日記を書いているのかと言うと、実は昨日この友人が娘の卒業式の写真をフェイスブックにアップしたからである。もとより他人の娘だから筆者が何をどうこう言うべきではないのだろうが、ニカッと笑う友人とその妻とは対照的に娘さんの表情の中には喜びよりもあの日本料理屋で見せた一点の戸惑いの表情を見つけたからだ。望んでないんだろ・・その道。だったらまだ間に合うぞ。






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親は満足でしょうから、この際、アメリカでのマスターディグリー習得か何かで(親の承諾をとって)、あめりかや欧州に留学させて、同時に、デザイン等も学べばよいと。

基礎学力として、一流大学卒を利用すればよい。と、私は思います。

 

絵も描ける経営者になったら素敵じゃないですか。

優秀な人って、二つの道を同時に歩くこともできますよ。
どっちにしろシンガポールに芸術系の大学が少ない以上、一旦普通の学問を学んでから編入する手もありですよ。

ま、現実的には、結局辞めてしまうんじゃないですか?
その大学・・・。

しょうもない大学を卒業した私にとっては、うらやましい限りです。俺の学歴と交換してやりたいw

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