生死を分けた瞬間の自慢話

海外に長らく駐在していると死ぬ寸前の目に合った同僚たちが結構いる。2008年の四川大地震の際に成都に出張していて、たまたま路上を歩いていたために瓦礫どころか鳥のフンにも当たらなかったという幸運な奴や、インド洋大津波の時にプーケットに遊びに行っていて波に呑み込まれそうになった奴、サンパウロで銃撃戦に巻き込まれて殺される寸前になった奴などだ。

海外営業に配属されたからには危険な目に合うのは承知の上!と言うのが筆者の口上であるが、じゃあお前にはどんな経験があるのか?と聞かれると実は恥ずかしながら一度も無いのだ。海外に長くいる日本人の多くが経験するナイフや銃を突きつけられてのホールドアップどころか、何かを盗まれた経験さえも無いのである。

それで飲み会でこういう危険自慢大会になると筆者は2002年のチェチェンゲリラによるモスクワ劇場占拠事件の時には筆者は同地にいたという話をしようとしたのだが、でもその時は市内全域に戒厳令が引かれたわけでも無く、またモスクワのあちこちでは老若男女がレストランやバーに繰り出していたから全然説得力が無い。

それで「お前にはもっと生きるか死ぬかギリギリの経験は無いのか?」と聞かれた際は、筆者は今から28年前の学生時代にインドで犬に噛まれた話をすることにしているのである。ゴアにあるアンジュナビーチというヒッピー村に滞在していた筆者はラリパッパの状態で深夜フラフラ歩いていたら犬を踏んずけてしまいガブリと噛まれてしまったのだ。

ただし噛まれた時はクスリの影響で痛みを感じなかったのでそのまま借りていた部屋へと帰ったのだが、翌朝目もクスリも覚めてから随分と派手な噛み跡および血痕が腕についているのを見つけた。そして隣の部屋にいた大阪芸大のキチガイカップルが筆者を見るや「あんたぁ!こりゃ大変やで!」と騒ぎ出したのである。





インドは狂犬病の坩堝だとというのだ。ちなみに筆者はその病気についてあんまり知識が無かったのだが発症すれば100%死ぬウルトラ級の危険な病気だと言う。今すぐ病院に行かないと死んでまうで!と言うので筆者は慌てて用意を始めたのだが、ここでそのまた隣に住んでいた折小野という早大生が「ちょっと待った!」と言い始めた。

お前の体内にはまだクスリの残留物が残っているから、医者が警察に通報するかもしれない!と言うのだ。インドの刑務所ってのは懲役3年も死刑も同じなんだよ・・。だって外国人は入ったら最後囚人仲間に凌辱されて自殺するか、あるいは殺されるんだからな・・と言う。その時筆者の脳裏にミッドナイト・エクスプレスという悲惨な映画のシーンが浮かんだ。

それで結局その日も昼間からラリパッパになってしまったのだが、1週間後にカルカッタへ移動するとふと病院へ行って注射を打ってもらおう!と思い立った。たまたま筆者は重度の肝炎になった岩崎と言う日本人の面倒を押し付けられてしまい、郊外にある地元では有名な病院に入院した彼のもとへ日参していたのである。

ところがこの病院と来たら廊下にも患者が溢れているような不衛生さで、それもこいつらライ病なのか梅毒なのか知らないが肌が溶けているような症状なのだ。こりゃこんな病院で注射を受けたら病気を治すどころか持病が増えるだけだ・・と思い、結局その数日後に移動するバンコクで治療することにしたのである。

昔インドを旅された方ならよくご承知の様に帰り道に寄るバンコクはインドとは雲泥の差の大都会であり、特に当時どえらく不便な場所にあると感じたバンコク・ゼネラル・ホスピタルは日本語で治療を受けられると滞在先のホテルのバックパッカーから聞いたので、到着したその翌日に早速出かけたのである。





出てきたのはインド系の医者なのにはゲンナリしたが、日本語が上手な看護婦さんに状況を説明すると、このインド系医師が最初に聞いたのは「キミはインドで血清注射を受けたかね?」という予想外の事だった。彼の物凄くシリアスな表情に「これはひょっとしてもう手遅れなのでは?」と正直手足が震えてしまった。

ところがこの医者は筆者の答えを聞いてニッカリと笑い「君は大変賢明な決断をしたよ!」と言った。なんでも狂犬病のワクチンには2種類あって、現在この病院にあるMARIEX社のワクチンは卵を培養した最新タイプで副作用は全く無いのだが、インドではこのタイプは認可されていないため旧タイプ、つまり脳に重大な副作用を起こすワクチンしかないのだ!と言ったのである。

その脳に重大な欠陥と言うのはどういう症状になるのでしょうか?と聞いてみたところ、この医者は良くて一生ひどい頭痛持ち、悪い場合は白痴になるんだよ・・と再びすごくシリアスな顔で言う。その瞬間に筆者は背中にサーッと冷や汗をかくとともに、脳裏では「一生棒に振るところだった!」と快哉を叫んでいたのだ。

もしもゴアで折小野という早大生が止めなかったら、またもしもカルカッタの病院が案外と綺麗だったら何ごともせっかちな筆者は間違いなく旧タイプのワクチンを打ってもらっていたはずである。それが何のおかげかたまたま筆者には珍しく重要な用事を後回しにしたことで助かったのである。こういうのを僥倖とでも言うのだろうか。

さて筆者はこの話を意気揚々と海外仲間達にしたのだが、彼らはジロッと筆者を見た後で「そりゃ、インドくんだりでラリパッパになったお前がバカなだけなんじゃねえの」でお終いになってしまう。よって筆者はこういう生死を分けた瞬間と言う話題が上る度に今でも肩身の狭い思いをしているのだ。だけど、これって生死を分けた瞬間に匹敵する話じゃないか?






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