噛み合わない映画談義

最近はホラー映画くらいしか見ていない筆者も大学時代は映画サークルに属していて、よく友人たちと名画座に出かけてはジャン・リュック・ゴダール監督の「勝手にしやがれ」や、ルキノ・ヴィスコンティの「地獄に堕ちた勇者ども」なんかを堪能し、その後駅前の居酒屋で長いこと映画談義に興じたものである。

この2つの作品名を見てお気づきの方もいるだろうが、筆者らが好んでいたのは神保町の岩波ホールで上映されているような難解で万人受けしない映画ばかりで、簡単に言うと米アカデミー賞に出品されるハリウッド作品など阿呆らしくて一切無視するが、仏カンヌ映画祭の速報は丹念に目で追うヨーロッパ・第三世界映画マニアなのだ。ベレー帽を被っていて喫茶店をカフェではなくキャフェィと発音するキザで嫌な野郎とご想像いただけば良いだろう。

当然映画の話など振られればアンジェイ・ワイダの「灰とダイヤモンド」やフェデリコ・フェリー二の「甘い生活」、それと溝口健二の「雨月物語」といった映画ばかりが口から出てきてしまうのだが、幸運なことは会社に入ってからも筆者の同僚にはこういう映画が好きな人間が結構多くて、また香港人たちも英植民地としての反発心から意外とフランス映画ファンが多かったため筆者は映画の話題では品位をずっと保つことが出来たのだ。





ところが・・、フィリピンに移住してからは筆者のこういう知的でお仏蘭西な映画談義は諦めざるを得なくなってしまった。女房が2時間の鑑賞に耐えられる映画はシンデレラみたいな子供向けの作品だけであることは重々承知していたが、なんと義妹や義弟、従兄妹や数少ないフィリピン人の友人知人たちも女房と五十歩百歩なレベルだったのである。

従兄妹たちの中で一番教養が高く、かつロビンソン・ギャレリアの映画館部門でマネージャーをしているアニーと一度映画の話をしたら「スター・ウォーズ・シリーズ」の素晴らしさを生き生きと話し始めてしまったし、オレは昔の映画が好きなんだ!と自慢気に言う従兄弟ジャネルのベスト作品は「インディ・ジョーンズ」だったのである。

昨年亡くなったボウイ叔父は内務省の役人時代に映画関連のプロジェクトに絡んでいて、「いやぁあれは全くもって素晴らしい映画だったよ!」というので題名を聞いてみたら「ウィロー」というどうしようもないファンタジー映画だったし、エスター叔母が一番好きな映画は「猿の惑星」で、映画好きのエド叔父さんも「ジェームス・ボンドは欠かさず見てるよ」と体たらくである。





この世代なら「ひまわり」とは言わないけど、せめて「卒業」とか「真夜中のカーボーイ」「カッコーの巣の上で」ぐらいは出てこないのかよ・・と思ったが、彼らをいくら追及してもせいぜい「ロッキー」や「ジョーズ」「ポセイドン・アドベンチャー」、さらには「テンタクルズ」という巨大な蛸が人間を襲うカス映画の名が出て来るだけである。

貧困や汚職に蝕まれた現実を一瞬でも忘れるために映画館に足を運んだのに、なんで悲しい気分にさせられるような映画を観なきゃいかんのだ!という気持ちも判るけれども、彼らの口から出て来るのは100%ハリウッド映画、しかも「ロード・オブ・リング」でさえ文芸の香りが漂ってくるのでは・・と思わせるほどの徹底した下層大衆向け娯楽映画なのである。

それで筆者は彼らと映画の話をするのは金輪際諦めたのだが、困ったのは彼らの中に「あの日本人は映画好きなんだ」という情報がインプットされてしまい、会話に詰まると「ハリー・ポッター・シリーズでは何作目が好きですか?」などと笑顔で聞かれてしまう事で、その瞬間に筆者は空虚感と深い悲しみに包まれてしまうのだ。






にほんブログ村 海外生活ブログ フィリピン情報へ
にほんブログ村

スポンサーサイト

コメント投稿

  • URL
  • コメント
  • パスワード
  •  管理者にだけ表示

アメリカ映画は大好き 

スターチャンネルとかで、よくアメリカ映画ばかり見てるね。
個人的には、イギリス映画とかの方が内容があって英語の発音もきれいだと思う。

猿の惑星が好みというのは、自分の国の事だからかな?(笑)

 

ここ10年以上映画館に行ってない。昔は100ペソあれば、入場料とポップコーンとコーラで楽しめたのに…

今は、入場料が300ペソ以上とか。高いよね。

映画かぁ… 

文学や音楽、絵画とかの芸術全般にも言えそうだけど、結局「好き嫌い」の問題なんだよねぇ…「良い悪い」ではなく。

せちがらい世を忘れたくて「現実逃避」の快楽に耽るのか、せちがらい世に自分の身をどう置くかを考える「現実認識」のヒントとして耽るか…

どちらにせよ「脳味噌の栄養」にはなりそうですが(笑)

 

HNで地味に映画好きを主張してるんですが(笑)

映画談義がご所望であれば是非一声かけて下さい
エキプドシネマとか全貌モノが大好物でした

当時は千石にあった三百人劇場まで見に行ったり
「郵便配達は〜」と「沈黙」の二本立てとか
「もう頬づえは〜」と「Keiko」の二本立てとか
いい時代でした

トラックバック

http://dadesigna.blog.fc2.com/tb.php/902-62f79da9