僕らはみんな生きている(2)

わが社の技術が盗まれている・・。そう会社は判断した。しかしこの技術は図面や加工指示書を盗んだくらいで出来るような代物ではない。製品の設計から加工方法、素材や気温の変化による微妙なズレまですべて把握していて、現場に出向いて理論と実証の齟齬を埋める作業を何度も繰り返し、素材外注に対しても的確な指示が出せる人間、つまり設計開発と商品技術のプロがいないと移転などできないのだ。

さらにこの技術は民生品だけでなく軍事転用可能な、というより思いっきり軍事目的に使える代物であり、実際レニングラード国営工場は当時東側でも有名な軍事工場も兼ねていたのだ。思い当たる筋と言えばライプチヒ工場への技術指導だが、ここに移転したのはソ連に漏えいしたのとは別種の格段に簡単な技術であるので直接の関係は無い。しかし原因はどうであれこれは間違いなくココム(対共産圏輸出統制委員会)に引っかかって大問題になるぞ!と社長ら幹部は疑心暗鬼に陥ったらしい。

さて肝心の漏えい元については誰もの口から大滝氏の名が挙がった。ライプチヒに2年いて東ドイツ人のエリート技術者達と日常的に接する立場にいたことの他に、京都大学時代に学生運動をやっていた・・という経歴がその理由だが、あの世代は運動やってない学生の方が少数派だったから、こればかりは言いがかりであろう。しかしこの大滝氏は若いころにその最重要の技術を開発したメンバーの一人であったというのが噂の信ぴょう性を高めてしまった。

大滝は東ドイツ人、いやソ連人に我が社の最重要の技術まで教えたのではないか?。しかしそう断言するための確たる証拠はない。そして当然ながら大滝氏は嫌疑を否定したらしいのだが、その後ミンスクだかゴーリキーだかの国営工場が別の技術、しかも大滝氏の属する設計課がまだ開発中でごく限られた人間しか知らない技術を使った製品をリリースするに及んでついに大滝氏への疑念は決定的になってしまい、彼は開発とは全く関係ない部門へと配置転換されてしまった。


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もちろん開発部門の別の人間が日本在住のソ連人を通じて技術を売っていた可能性も十分あったらしいのだが、ココム違反がばれることを何が何でも防ぎたかった会社としてはとにかく「対策を取った」と今すぐ一安心したかったため大滝氏を犠牲にすることにしたらしい。この後は目立った漏えいは無くなったそうだが、その反面エースの大滝氏がいなくなったため商品開発で競合他社に負けるケースがいくつか起こったらしい。

さてその後の大滝氏だが、筆者が入社した頃は業務本部長というお偉いさんであった。新製品開発や技術とは全く関係が無い資材や物流を取り扱う部門だが、本部長とは役員一歩手前のかなりの地位である。「あいつはソ連に技術を売った裏切り者だ」などの悪評を立てられたようだが大滝氏は持ち前の頭脳明晰さでどんどん出世していったのだ。

なお筆者は一時期商品企画にいた時に「大滝○○構造」などと名付けられた独創的な特許を数多く目にする機会があったので、大滝氏が相当優秀な技術者であった事は知っていた。それに疑惑当時の大滝氏は開発部の全てのテーマを技術的、理論的に再検証する地位にもいたから、いわば最新技術の宝箱の上に座っているような人物でもあった。

なのでもしも自分が競合他社や敵国に雇われた技術情報収集担当で、わが社の中で一人だけ買収することが出来るとしたら迷うことなく大滝氏に白羽の矢を立てたに違いない・・と酒の席で誰かに話した覚えがある。しかしこの時はすでに事件から相当時間がたっていたし、何よりソ連自体が崩壊して過去の遺物になりつつあったから、当時の大滝氏は「濡れ衣を着せされた可哀そうな人」という評価へと変わっていた。


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だけど、東ドイツで、現地技術者に技術移転やったのだから、もれて当たり前とは思うけど。このシリーズたのしませてもらってます。

 

ロシアが技術スパイの超一流技術者を送り込んだのでしょうね。精密加工分野の。

 

ライプチヒで技術指導したのは漏れたのとは別の気密性の低い技術ですよ。

 

なるほど。情報不足で。

絶世の美人技術者がスパイとして送り込まれていたのかな。o氏の女の趣味を調査した結果の。

それとも、スパイ技術者が、親友となって、技術談義に花が咲き、うっかりのせられてしまったのかも。お金で売ったとは考えられないような。

でも、日本側の開発スタッフ、技術資料室に上手く産業スパイが入り込んでいた、と考えた方が、確立的には、高いような。どちらにしても、o氏、無実だと私はかんがえます。

 

でも、少し深く考えるなら、本社研究室の、どこの分野がどのような研究をしているとか、ぐらいは、話すでしょう。機密でもなんでもない。

そうなれば、ロシア産業スパイグループ ネットワーク日本支社が、その部分の資料をありとあらゆる方法で、盗み出す(コピーをとる 又はリバースエンジニアリングの見本を盗む)ことは、できると思いますよ。例えば本社の警備員でもお茶くみでも可能かもしれない。

知らない間に、手引きをしていた。っていう方が、正解かもしれませんね。

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