大阪・阿倍野の黒帯酒場

天王寺のキューズモールで買い物を済ませた後、ちょっと一杯ひっかけたくなったのであべのウォークにある居酒屋に寄ることにした。これは大阪版の「吉田類の酒場放浪記」ともいうべきテレビ番組で紹介された明治屋という店で、はるか昔からあべの横町で営業していたが、阿倍野の再開発により一旦は姿を消し、キューズモールの完成で再び姿を現した老舗なのだという。

それなら刺身を冷酒でクイッと・・と思って暖簾を開けたのだが、店の中を除いた瞬間に「これはまいったな・・」と固まってしまった。見た目は舌の肥えたオヤジたちが通う銀座一丁目の三州屋のような大衆的な風情な店なのだが、フランスの三ツ星レストランや銀座の超名店で感じたある種のカチッとした緊張感をここで感じてしまったからだ。

この店は何か勝手が違うぞ・・と思い、恐る恐るメニューを見たが、カツオのたたき700円、きずし(〆サバ)550円、だし巻き卵200円と新宿のションベン横丁よりも遙かに安い。それに日本酒も一合420円から高くても600円とお手頃で、場所がら腹巻にどてら姿の西成労務者が屯っていてもおかしくないのだが、なぜだか店全体を奇妙な気品が支配しているのだ。

「いらっしゃいませ。何にしますか」と登場したのは大変無愛想な女主人で、この店の硬さの半分は女将よりも歯科医が似合いそうなこの女によって作られているのだな・・と思ったので、コイツの嫌な顔を見てやろうとメニューの中で一番よく飲んだことがあるミーハー酒の典型、八海山のしかも一番安い本醸造480円を冷やで頼むことにした。





それが待つこと1分で頼んだカツオのたたきときずしが出て来た。なんだよ・・作り置きか・・と思って口に含んだところ、美味い事は美味いが絶品どころか中の上くらいの味である。しかし「まあ700円だからな・・」と心の中で舌打ちしながら八海山の冷酒を一口呑んだ時に思わず筆者は固まってしまった・

絶品・・・・・・・。

これは筆者が過去20年間にさんざん飲んできた八海山では無かった。いやもっと正確に言うと、筆者が今まで飲んだ如何なる日本酒とも全く別次元の人生で初めての一番美味い酒であった。うそだろ・・八海山の一番下のグレードの本醸造でこれか・・?

ちなみに筆者は海外が長いとはいえ、出張で日本に行けば銀座や新宿の日本酒が美味い店に毎晩のように通っていたし、日本酒好きな友人が勧める中央線界隈でナンバーワンの西荻窪の知られざる名店で日本各地の地酒を堪能してきたが、この大阪阿倍野の一杯480円の酒ほど美味いものを飲んだことは無い。





それで今度は三重県の地酒(名前は忘れてしまった)とともに、大阪名物のどて焼きと蛸の子というのを頼んだのだが、案の定ツマミは大したことはなかったのだけれど、この500円の酒と言うのが体がとろけるんじゃないかと思うほど美味くて、思わずアッハ~ンと唸ってしまったのだ。

一体これは何の冗談なのか?正々堂々と八海山とか名乗っているのだから、まさか別の純米大吟醸を代わりに卸しているわけはないし、相手も商売だから元値を割るような商売をする訳が無い。では一升瓶に詰めないで樽ごと買っているのか?と女主人に聞いたが、冬のバイカル湖のような冷笑を返されるだけで終わってしまった。

しかしこの明治屋が大阪の酒飲みたちの間で長らく愛されている理由がやっと分かった。魚や肉が味付けが美味い居酒屋と言うのは星の数ほどあるが、酒が飛びぬけて美味い店と言うのは聞いたことが無いし、それに料理の方は酒を飲むためのアテでしかないのだから、早くて安くてそこそこ美味ければ良いのである・

そう考えると・・、確かに店にいるのは酒が好きそうな(と言うより半世紀くらい酒浸りを続けてきたような)超玄人ばかりである。しかもグループで来るのは稀でみんな一人呑みで店に来ては黙々と杯を重ねていく。こりゃ相当の酒飲みが来る場所で俺なんぞほんの小僧だわい・・と怖気づいた筆者は三杯目の樽酒を干したあとは早々に退散することにした。






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No title 

初めまして。
私も八海山が好きです。

この後の記事についてですが、そうですか~、私も関西人はいける!と思っていたので、ちょっと残念です。

が、関東人でも結構行けるのか?!と良い方向転換出来るかも♪

関西について、カースト制度、住み分け、なるほど、確かにですね!
そうすると、結局彼らが信用できるのは家族など狭い範囲に絞られてしまうのでしょうか?
そうすると、関西人が組織で大きなことをするのは、意外と難しいのかしら??

それでも、やんわりと辛らつなことを言える方便は、・・・私もちょっとは処世術を身につけねばという気にさせられます・・・。

No title 

コメントありがとうございます。
次の日記ではああいうことを書きましたが、実際のところ筆者は大阪人が大好きですし、中国人やユダヤ人、インド人など商人の民というのは国家主義とは縁遠いコスモポリタン的な性質を持つのが普通です。

ですから日本の中にこういう外国と美味く渡りあっていける人間を持つことはとても重要なことですし、表裏の無い一方向的な東京人では外国と伍していけないというのが事実でしょう。

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