ウォッカと毛皮の帽子

2015/04/22 01:00:51 | 昔話 | コメント:4件

昨日、熱中症対策には帽子が効果的であるという日記を書いたが、本日の日記では筆者が気付いた帽子の意外な効果について書くことにする。しかしこの話は熱中症とは全く逆の環境での話なので、フィリピン在留者には全く関係ないことを先にお詫びしておきます。

10年以上前の真冬の事、ロシア共和国の首都モスクワで開催されていた展示会の最中に急きょ二泊三日で取引先の工場を訪問することになった。この取引先は元々は旧ソ連の国営工場で、社会主義華やかし頃はソ連全土と東欧、それに中国や北朝鮮にキューバなどの共産圏の需要をほぼ独占していた巨大企業であったが、ソ連が崩壊して以降は一気にドン底へと転がり落ち、今や青色吐息の状態になっていたのだ。

それで自分たちの工場を日本人技術者に見てもらい、何が問題点なのか?、どういった設備が不足しているのか?といった事柄についてアドバイスを貰いたい!と言い出したので、展示会に視察に来ていた2人の技術者を伴って車で片道4時間の距離にある田舎町へと向かったのである。ちなみに当時はモスクワから1時間も過ぎると辺りは対向車も来ない大雪原となってしまうため、案内役のロシア美人が言った「この車がエンコしたら全員凍死間違い無しですね」いう言葉もあながち冗談とは思えなかった。

この国営工場で筆者らが目にしたことは今日の日本企業が直面している多くの問題に関係する事なので今度別の機会に日記にするこが、筆者らがこの短期間の旅で苦労させられたのはロシア人の頑迷さと根本的な勘違いよりも、とにかく寒くて寒くて仕方が無い事だった。一応登山用のジャンパーや2枚重ねのズボンなど着てはいるが、そんな事で防げるような寒さじゃないのである。





運が悪い事にこの工場は敷地がだだっ広い上に、各工程がいくつかの建物に分散しているため、建物間の移動は屋外を何分も歩かなければならないのだが、日中気温零下10度というのは日本じゃ絶対に体験できない本当に凍死するんじゃないか?と思うくらいの物凄い寒さなのである。

一方筆者ら3人を案内するロシア人の技術部長は陽気にロシア特有の下らない冗談(アネクドートという)など話しているから、こいつらは寒さには平気な様である。そして我々が死にそうな表情をしているのを見た技術部長は秘書役(と言うよりも小間使い)のオバちゃんに命じて工場内にある社員食堂からロシア製ウォッカの大瓶をくすねて来させ、筆者らにこれを飲め!という仕草をした。

それで3人でウォッカボトルの回し飲みを始めたのだが、これがあなた・・信じられないだろうが3人で一瓶まるまる開けても1ミリたりとも酔わないのである。これ本当に本当なのだ。確かに体の方は少し暖かくなったな・・という気がしないではないが、頭の方はすっきりと冴えきっていて、ボトルネック工程の算出や金属メッキ工程で使う難しいモル計算など3人ともスラスラと出てくるのである。

「おい、これじゃだけじゃだめだ!もう1本ウオッカをくすねて来い!」と小間使いに言うと、オバちゃんはロシア語で何やらブツブツ言ったが、オレたちゃ寒くて死ぬ!と言い張る筆者の切迫感に押されたのか渋々従った。それで今度はロシア人技術部長と4人でラッパ飲みしたところ、なんと筆者らはケロッと平気な顔をしているのに、ロシア人だけは顔がずいぶんと赤らみ始め、それに前にも増して下らない冗談話を陽気な口調でベラベラと喋り始めたのである。





「おい・・このオッサン酔いはじめたぞ・・」と呆れる日本人の老技術者。だけどおかしいな・・、昨晩の歓迎ディナーではコイツは呆れるくらいにウォッカをがぶ飲みしてたのに、なんで今日はたかが200ミリリットルくらいの量しか飲んでないのに俺たちよりも酒が弱くなってるんだ・・?。それともロシア人は気温の違いや昼夜の違いでアルコール分解酵素の分泌に変化がでてくるのかね・・?などど首を傾げていたのだ。

やがてこのロシア人はウォッカのせいで体が熱くなったのか頭に被っていた毛皮の帽子を脱いだのである。この帽子というのは赤の広場の檀上からミサイルのパレードを見守っているソ連共産党政治局の重苦しい面々が被っていた円柱型の帽子のことである。そしてふざけた様にこの帽子を藤田と言う技術者に被せたのだ。

すると10秒後・・。藤田がビックリした声で「アレっ!おい!寒くないぞ!」と叫び始めた。エッ?あんたナニ言ってるんだ?と聞くと、「本当だよ!この帽子かぶると全然寒くないんだよ!」と言う。それで藤田から手渡された帽子を筆者もためしに被ってみると、待つこと1秒、2秒、3秒・・・。エエーッ!本当だ!頭だけじゃなく全身が寒さを感じなくなったぞ!。

実はこの時の経験から次の日に筆者ら3人はロシア製の帽子を購入することになったのだが、この帽子をかぶっていた最後の数日は一度も寒さを辛いと感じる事は無くなったのである。体感温度に一番影響を与えるのはどんな厚手のコートや靴下よりも帽子であることがその時分かったのだ。





さて田舎町の工場に話を戻すが、頭皮を覆えば寒さが防げることを知った筆者らは早速宿泊先のゲストハウスに戻ってキャップ付きのウィンドブレーカーや(剣道の手拭いを撒く要領で)タオルを頭に巻きつけて工場見学を続けることにしたのだが、一歩、また一歩と歩くうちに今度は意外な体の症状が出始めた。

ゲー!ウェー!ゲロゲロ!ベーッ!。これまで鳴りを潜めていたウォッカの酒精が一気に噴き出したのだ。トイレに駆け込んだまま出てこない老技術者、床にしゃがみ込んだまま動かなくなってしまった藤田、笑いこけるロシア人技術部長に、「だから言わんこっちゃない・・」と言わんばかりの小間使いのオバちゃんの冷たい視線・・・。段々と消えていく筆者の意識・・。

結局この工場診断は日本側メンバーが不測の事態に陥ったために途中で打ち切りとなってしまった。そして翌日ひどい二日酔いの中を工場幹部たちの冷たい視線に見送られながらほうほうの体でモスクワへと戻っていったのである。かように何とも情けない結果となってしまったのだが、実はこの訪問で筆者の方も何も得るモノが無かったのか?と問われると、実はそうでも無いのだ。

帽子と酒の酔い方の相関を知った筆者は、寒い新潟の夜に速攻で暖を摂るためには帽子を被りながら酒を飲む習慣を身につけたのである。特にセブンイレブンのおでんと熱燗、これぞ日本の冬の正しい越し方であろう。それにこれだと酒量が少ない割に結構酔えるし、なにより懐にも健康にも大助かりなのが良い。ただ2年前にマニラに来てからはこのロシア製の毛皮の帽子を被る機会は一度も無いし、多分これからも無いだろうけどね・・。






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コメント

2015/04/22(水) 08:26:27 | URL | でぶ熊 #r3l6DfZI
ウランバトルにいた事がありますがマイナス20度なら暖かい日です。これ以下だと寒いのでなく痛く日本製防寒具はは硬くなってしまいます。
防寒で重要なのは体の末端の指と脳の血流保持の為の首筋、頭の保護です。ウイスキー、ブランデーを試しましたが有効なのはウオッカですが筆者のような経験はありません。地元民は朝からウオッカを飲み夜間に外に長くいると方向感覚がなくなり近くの店でウオッカをひっかけます。
個人差がありますが髭を剃ると軽い凍傷?なのか痒い
です。北欧で冬季には顔を石鹸で洗うなと言われたのは正しいです。
因みにモンゴルでは草原を走り他の町に行く時は予備燃料食糧銃を積み必ず2台で行くのが鉄則、夏でも。
寒冷地仕様のバスを入れた会社は隙間風で運転手が凍傷になり大変でしたがシベリアのロッギング向け車両をだしてた日産は厳寒地仕様で問題なし。10月からはプレ/ポストヒートが効かず溶接配管出来ず鉄道車両修理に来てた独人はマイナス15以下で外部作業はしてはいけない独法をたてに帰ってしまいました。

2015/04/22(水) 13:00:21 | URL | star child #/9hBKkrU
お二人の話を菊につけ、商社マンの仕事に楽しさを覚えます。
どこの一流大学、学部でも入学できたし、どこの会社にでも就職できた。今になって、有る意味で反省しています。昔は、情報が無かったものね。

2015/04/29(水) 13:23:22 | URL | hanep #-
冬服の管理維持って大変ですよねー。
私が愛用しているコートなんか、カビで真っ白になってましたよ(泣

それにしても、この工場、結局KAIZENできたのかなぁ。オチが気になる。

Re: タイトルなし

2015/04/29(水) 22:11:33 | URL | ほにょ #-
この後いろんな投資家グループの下をたらいまわしのされたあとで潰れました。

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