産業スパイ体験記(2)

2014/09/09 23:08:29 | 昔話 | コメント:1件

さて筆者とMの接見はいつもは毎月2回あって、Mが営業日報の入ったCD-ROMを、そして筆者が現金の入った封筒を指定された場所で交換するという古典的なスタイルだったが、これはMがメールや送金など証拠を残ることを恐れていためである。そして接見の際に筆者は前回入手した情報について満足、不満足を手短かに伝え、さらに日本の本社から要求されたD社の内部機密情報を入手して欲しい由伝えるのだが、金にがめついMは当然の事ながら営業日報以外は別料金を要求してきた。

ただしはっきり言うが、筆者の会社が野村総研などのシンクタンクに払っている料金に比べればMの要求金額ははるかに安く、しかも競合相手の生情報なのだからMを言い値にケチをつけて全てをぶち壊しにする事は出来なかった。それにMは結構抜けたところがあって、D社が開発した新製品、これは筆者のいた会社の稼ぎ頭の商品と対抗した画期的な製品だったのだが、この開発情報をリリースの1年前にリークしてくれたおかげで、筆者の会社はそれと全く同じものをD社より1ヶ月だけ早く製品化して命拾い出来たのだが、Mが請求してきたのはたったの8万香港ドル(96万円)だけだった。

なぜだか知らないがMが持ち運ぶ情報の値付けには偏りがあって、製品コストや生産ラインの設備投資など工場に関する情報は5〜10万香港ドル、逆に営業に関するものは2〜5万ドルとやけに安かったので、Mが価値に気がつく前に販売データをゴッソリと入手することにした。例えばである。ベアリングメーカーにとっては最も汎用性の高い製品のトヨタへの卸値という情報は最高の機密事項だが、どうもMの世界観では無数にある数字上の一つでしか無いと映った様で(こいつは本当にバカと思った)、トヨタも足立区の町工場への販売価格も十ぱ一絡げで売ってしまうようであった。

なので筆者は香港中の顧客がD社製品をいくつ、いくらで買っているのか全て知っていたため、百戦錬磨の顧客達のブラフに騙されることなく最も利益の上がる単価設定をすることが出きたのだ。それに大手でありながらD社から比較的高めの値段で買わされているカモ客を容易に切り崩すことが出来たし、相手がこれから数週間にかけて何をしようとしているのか逐一把握することが出来たから、おそらくM情報によっては年間5億から10億円くらい利益増にな繋がったと同じで思う。。ところが筆者の会社がMに払った金額は年間120万ドル(1440万円)だから、これは笑いが止まらない話だった。






さてある時Mから緊急で会いたいという連絡が入った。しかも場所はお互いの会社から2駅程度の四川料理の食堂。今までMは絶対に月2回のペースを崩さなかったからこれは極めて異例な事だった。そして待ち合わせ場所に到着するやMは開口一番「来週月曜から汎用品の価格を10%一斉値下げする。ターゲットはお前の会社だ」と言うなりスタスタとその場を立ち去った。これは半導体で言えばDRAMの価格攻勢と同じで、即時に価格追随しなければ一気にシェアを切り崩されかねない。しかし筆者の会社の当時の事業部長は競合他社から攻撃を受けても、現実性の精査や被害規模の算出にかまけて決断を先延ばししてしまう様な優柔不断な人物だった。D社はおそらく筆者のいた会社の弱点を見込んで一気に攻撃を仕掛けるつもりだったのだ。

さてここで筆者の会社内でのスタンス調整についてクドクド書く事はしないが、事業部長から相手がしかけて来た時のみ対抗するという「専守防衛」の認可を渋々ながらもらう事が出来たの。そして翌週月曜日に筆者は部下のセールスマンを各代理店と重点顧客に配置し、朝9時から始まったD社の値下げアナウンスに対し、9時5分にD社と同じ分だけ値引きを一気に断行したため、結局1%のシェアを失わずに済むことが出来た。もしもM情報が無ければおそらく年間50億円くらいの損失を蒙った筈であった。

ところが不思議な事に、Mはこの値引き情報についてはたったの5万ドルしか要求してこず、しかもその後に同じ様な価格攻勢の事前情報を翌年と、翌々年の合計2回提供してきたのだが、これもたったの5万ドル(60万円)だけしか要求してこなかったのだ。Mがいくら馬鹿者で生産現場に偏った思想を持っていたとしても、この情報リークで筆者の会社がどれだけ助かったのかは掛け算と引き算だけで計算できる。だいたいがqもともと金に意地汚いMにしては頭が回らなすぎる。そしてその時に筆者はMは金の為以外に、もう一つ別の意図があって機密情報をリークしていることに気づいた。

おそらくである。Mは心の奥底でD社のことを憎んでいたのだ。そして自分を高卒として見下す支店の大卒メンバーに復讐したかったのだ。なので大卒のエリート達が必死にかき集めてきた顧客の情報や、マーケティングの分析資料を競合他社に二束三文で売っぱらうことで踏みにじりたかったのだろう。そしてエリート達が立案したシェアダッシュ作戦が見事に失敗し、結局売値が下がっただけのとんでもない愚策だったというダメ評価が下される事を心から望んでいたのだ。劣等感に苛まれるたMは実際劣等である)同僚の足を引っ張ることで自らの優越感を何とか満たしていたのだ。







にほんブログ村 海外生活ブログ フィリピン情報へ
にほんブログ村


スポンサーサイト

コメント

2014/09/10(水) 11:09:27 | URL | 通行人 #-
主様のビジネス経験談は本当に秀逸で示唆に富む内容ばかりですが、ちょっと小出しにしているのが残念。
本稿も普通なら「墓場まで持っていく」ような内容のものですが、そこまで暴露するなら、いっそのこと「海外ビジネス奮闘記」的回顧録に方向転換してみては?

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://dadesigna.blog.fc2.com/tb.php/351-186f19df
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)