誰もが知ってるけれど決して表に出て来ない話

筆者が香港で一番下っ端の駐在員をしていた時の事である。筆者の担当顧客の中に20年以上付き合いのある会社があり、筆者はこの会社の創業者である林(ラム)という老人から何故だか随分と可愛がられた。この林爺さんは元々は中国の北のほうの出身で、戦争中は国民党将校として南京と上海の治安任務に就いていたが、内戦で共産党に敗れたために部隊ごと雲南省経由でビルマへと逃れ、そこから台湾でしばらく過ごした後に香港に来たのだそうだ。この爺さんはよく「俺は国民党のスパイだから香港返還になったら投獄されるのだ!」と大声で冗談を言っていたのを懐かしく覚えている。

さてある時にビルマの話になったので「あそこにはクンサーっていう麻薬王がいますよね」と筆者が言ったところ、林爺さんは楽しそうに「クンサーのボスは誰だか知ってるか?」と聞いて来た。ちょっとは知ってるけど知らないふりをした方が年寄りは良く喋ってくれるので「知りません」と返答すると、「国民党だよ。日本との戦争資金を獲得する為に蒋介石が黄金の三角地帯を作ったんだ。クンサーは国民党の麻薬部門に雇われた何代目かの農場管理人なだけだよ。もっとも最後の方じゃ共産党の圧力に負けて向こうの方とも取引してるけどな」と言って笑った。

「だけど麻薬王って言ってもクンサーはたかが生産者だ。なんでみんな流通の支配者の方を王様と呼ばないのかな?これって変だとは思わんか?」と意味ありげに聞いてくる。確かにその通りだ・・。ビスケットから石油までその産業の王者は流通を支配している人間のことだ。と言うことはこの爺さんは三合会とか青パンとかのマフィアの事を言ってるのだと思い、筆者も名前を聞いたことがある杜月笙の名を挙げたが、この爺さんが「確かに黒社会は小売段階は握っているが、奴らに麻薬を卸す大元締めはもっと別の連中だよ。だいいち軍隊や警察を使ってる地位じゃないと危なくて出来ないだろう」と言った。



林爺さんの話によれば、1930年頃までは上海に拠点を置くサッスーン一族と香港にいる英国系商社(ジャーディンやスワイア)が麻薬流通の元締めだったが、その後は一貫して国民党が支配者だったのだと言う。一時期日本軍が上海に麻薬組織を作って(里見機関)小売まで含めた流通チェーンが出来たが、結局日本人じゃ大した量が捌けないので国民党系の商人達が(里見機関から)一括で買い上げるようになったのだそうだ。「ベトナム戦争の時もアメリカが資金稼ぎの為に麻薬商売に手を出したが、日本軍と同じで国民党の手の平に乗っただけだよ」と言って笑った。

「じゃあ今でも台北が麻薬流通のボスなんですか?」と聞くと、いや台湾とアメリカの国交断絶時点で国民党は一気に支配力を失ったのだと言う。それに国際世論に押されてクリーンに成らざるを得なかったし・・と急に歯切れが悪くなる。じゃあ一体誰が今の王様なんですか?と詰め寄ると、今はロンドンとかアメリカに分散して・・となんか口調が怪しくなってきた。その時に筆者はこの爺さんが今の商売を始めたのがちょうどその時期(70年代中盤)だった事を思い出した。ひょっとしてこの爺さんは関係者だったのでは・・。まさかね(笑)

「だけどな!麻薬の元締めが一番苦労するのは足がつかない莫大な現金を用意することなんだ。それで昔は香港で決済してたんだが、ちょうど国交断絶あたりから香港政庁がうるさくなってな・・。それで隣のマカオの親玉が決済については全て肩代わりすることになったんだよ。なので流通の支配権は分散してしまったけど、1/4いや1/8くらいはマカオのカジノのボスが握ってるんだ・・と言うなり、林爺さんはこの話題はお終いという具合に黙ってしまった。



なんか爺さんの嘘っぱちに騙されたかな・・と思ったが、内輪の飲み会の場で筆者の同僚である小煩い香港女にこの話をしたら「アンタ余計な口聞かない方がいいわよ!」と怒られてしまった。マカオのカジノ王スタンレー・ホーが麻薬ビジネスに深く関与している事はかなり有名な話だが、この御仁は香港の大手テレビ局や新聞社のオーナーでもあるためその事は放送禁止用語扱いらしい。それに香港には十万人の黒社会分子がいて聞き耳を立ててるから黙ってろ!このおしゃべり日本人!と言われてしまった。

しかし筆者は林爺さんや小煩い香港女の話など大して信じていなかったのだが、ある時マカオ空港で出発待ちの時に「あれは本当の事なのでは?」と思わせる出来事があった。高麗航空と書かれた不気味な飛行機がちょうど到着してドアが開けられるところだったのだが、乗客はたったの3人しか降りて来なかったのだ。しかし貨物の方は満載されていたらしく、トラックが引っ切りなしに機体に横付けされて何百と言う箱を運んで行く。飢餓状態で偽札と麻薬を作って糊口を凌いでる国がなんでマカオに定期便を・・香港にだって飛ばして無いのに・・と思った時に背中がゾッとして思わずその場を離れてしまった。

誰もが知ってるけれど誰もその事について触れない・・これぞ本当のタブー、本当の恐怖である。なおスタンレー・ホー氏は今も存命中だが、数年前にマカオ政府とのカジノ経営の独占契約が切れてかなり影響力が落ちてしまったようだ。そして現在マカオのカジノを支配しているのは新たにやって来たMGMやサンズといったラスベガスの連中たちである。と言うことは麻薬流通の支配権は今度は・・。おっと!ここは小煩い香港女の助言に従って沈黙することにしよう。


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軍が麻薬で稼ぐのは中南米、アジアでは共通で歴史でも常識です。
記事のクンサーの残党軍が活躍したタイ・麺国の国境の町は旧体漢字が溢れタイの警察士官学校卒の憧れの赴任が国境警察でした、当時はラオスを含め黄金のデルタ地帯でした。
在社時代に専務に紹介されたプノンペンの息子は今は香港で宝石屋をやっている人物の父は麻薬と翡翠で財をなしたがタイ王のケシ栽培撲滅政策で商売替えしたと言います。

プノンペンから静岡までの距離、唯一の外港町シハヌークを仕切っているのはロシアンマフイアで麻薬のマネーロンダリングが本業。タイが厳しくなった結果でしょうが軍・警察・港湾局を仕切ってます。
ウズベキスタンのアフガンの国境の町にいた事がありますが同じです。

阿片、今はヘロイン・軍・行政を含めた商人/司法機関は一心同体と分かってるので首を突っ込まず距離を置いてます。堅気世界に身を置き続ける最低の掟だと思います。見猿・聞か猿・触らず猿/話さず猿は大事です。

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