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ホーチミンでジョージ・オーウェルを読む

2014/04/11 13:47:56 | タイ・インドシナ | コメント:0件

退職してから時間だけは腐る程有るので、会社員時代にネット経由で香港に送ってもらったが途中で挫折したり、斜め読みして十分吟味できなかった本をじっくり読む様になった。もう以前の様にポーターやミンツバーグらの小難しい屁理屈を解読する必要は無くなったので、古典的な名作や筆者の好きな分野の書籍に耽溺できるのが嬉しい。香港から500冊くらいマニラに運んだから(ビジネス関連の本は全部部下にくれてやった)、あと5年くらいは退屈しないで済みそうである。

さて今回の旅にも未読の本を沢山持って行ったが、最後に読み残したのは案の定ジョージ・オーウェルの「カタロニア賛歌」であった。この本は大学生の時に一度読み始めたのだが、スペイン内戦というドラマチックな舞台とは正反対のそのあまりに抑揚の無い平易な文章に途中で挫折してしまった事がある。そして40歳を過ぎた頃にもう一度チャレンジしたのだが、今度は大学生の時よりも前のページで脱落してしまった。

この「カタロニア賛歌」は有名な本だが、一応ストーリーを説明すると、独裁者フランコと戦うためにオーウェルは人民戦線の義勇軍に一兵士として参戦するが、ソ連に指導されたスペイン共産党による人民戦線内の指導権争いと亀裂を目撃する。やがて人民戦線は敗北を続け、オーウェル自身も負傷兵となって戦線から離脱してしまうのだが、独裁者打倒の理想の裏に潜む政治の残酷さを浮き彫りにした第一級のルポタージュであるようだ(ようだ・・というのは筆者はまだ半分くらいで止まっているからである)。

オーウェルの「1984年」や「動物農場」と同様に硬直したスターリニズムを人間的な社会主義の観点から批判したプロットであるが(ソ連からはトロツキストと批判された)、同じく人民戦線側で戦ったヘミングウェイの「誰が為に鐘は鳴る」に比べると、(ラブストーリーが無いのはまだ良いとしても)基本設定が分かりくい、と言うよりも入りにくくて読む気にならないのだ。

スペイン内戦は一般には「フランコ=悪」であり、人民戦線は悪と戦う正義の志士と理解されている。だってそうだろう!フランコを援助したのはヒトラーだし、美の巨人ピカソは都市爆撃に激怒してゲルニカを描いたじゃないか!それに世界中の理想に燃える青年達が国際旅団に志願して戦ってるんだよ!まるで20世紀のジャンヌ・ダルクだろう!お前は人民戦線が正しいとは思わんのかーっ、という具合である。

ところがオーウェルは人民戦線は内部抗争に明け暮れていて統一司令部が機能していないだけで無く、アナーキストや社会主義者ら主流派は戦略戦術的に余りに稚拙で戦争を展開する能力などまるで無いし、一方の非主流派(後に主流派になる)である共産主義者グループはナチスドイツ牽制の為フランスに警戒心を抱かせたくないスターリンの意向を受けて(スペインに革命政権が誕生するとフランスは軍事力をドイツ国境から割り当てなければならなくなるため)戦略上の手抜きをしていたと言うのである。つまり皆が持つスペイン人民戦線の英雄譚のイメージをぶち壊してしまうのだ。ただしこれは調べてみると事実なんだけどね。

歴史には批判しにくい禁忌の領域が幾つかあるが、スペイン人民戦線と並ぶ最も代表的な例がベトナム戦争時の解放戦線(ベトコン)であろう。ベトコンは南ベトナム人民の自発的な行動であるというプロパガンダを世界中が信じてしまい、巨悪アメリカと戦う正義の解放戦線という構図で全世界の目が凝り固まってしまったが、サイゴン陥落の後に解放戦線のメンバーがハノイの指導部の手によってだんだん粛清され始めると、人々は呆気にとられてしまい世界中の知識人は口をつぐんでしまった。解放戦線は実はハノイの欺瞞工作の産物であり単なる道具であったことを誰もが認めたくなかったのである。

さて昨日さっそく「カタロニア賛歌」をホテルのプールサイドで読み始めたが、やはり予想以上の歯切れの悪さに何度も中座して泳ぎに行ってしまい、結局30ページも進まなかった。燦々と輝くスペインの陽光にような人々の人懐こい笑みが消え、人民戦線という英雄譚の影にある生臭い現実が匂い始めてきたからである。ページをめくるほど純粋な気持ちで参戦した兵士たちの残酷な運命に胸が痛んできてページをめくる気が失せてしまう。やっぱりこの本は俺に向いてないな・・。また今度機会がある時に読む事にしようっと!


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