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十字架を祀る神社

2014/01/27 02:46:47 | 昔話 | コメント:0件

今日は筆者の父の3回忌にあたる日なので筆者が父から聞いた興味深い話について書くことにする。以前のブログでも書いたが、筆者の父は東京・中野区にある氷川神社の神主の長男として昭和3年(1928年)に生まれたが、戦後は左翼運動にのめり込みすぎて祖父から勘当されてしまい、結局同じ中野区の公立中学校の国語教師を生業としたのである。この話は父がまだ少年の頃、正確には1945年5月25日の夜、アメリカ軍による空襲で東京の西地区が焼野原になった通称山の手空襲に始まる。
     本郷氷川神社
          
空襲警報のサイレンが鳴り響いた後でB29爆撃機の大編隊が上空に襲来、やがて中野区の南部一帯が燃え上がり始めると、父は御神体を持って安全な場所に逃げるよう祖父に命じられたという。ちなみに神社の御神体というのは門外不出の代物であり、誰にも見れないように封印されているのであるが、今やこの一帯は焼夷弾で燃え尽きようとしているので建前などに拘っている場合ではない。神社の建物が消失しても大工に頼んで再建すれば良いが、御神体が燃えてしまうと神社が存続する意味が無くなってしまうので、家族の中で一番敏捷な17歳の父に御神体を守れと重要任務が与えられたのだ。
     1dc617ec73d36a174bd5860b686232fe.jpg

御神体を収めている神殿の扉を開けると、その中には木製の台のようなモノ(父にはそれがいったい何なのか最後まで分からなかった)が1つ置かれているだけで、宝石とか刀剣があるのではないかと期待した父は正直がっかりしたらしいが、祖父の命令どおりこの木製の台を風呂敷に包んで神社の裏山へと火の粉を浴びながら何とか逃げ込んだ。やがて一安心した父は好奇心もあって風呂敷の中身を覗いてしまったのだが(本来見てはいけない代物である)、その台のような木製品に大きく十字架が刻まれて居るのを発見してビックリしてしまったそうだ。
     キリシタン2

数年後に大学で国史を選考していた父は、この事を稀代の碩学で父の指導教官でもあった折口信夫に聞きに行ったらしい。折口は神社の創建年と御祭神の名前や、それに境内社など父に一通りの質問をした後「おそらくキミの神社は隠れキリシタンたちが多数関わって創建されたのだよ」と言ったそうだ。秀吉以降(特に徳川時代)の宗教弾圧で地下に潜ったキリシタンたちは、自分たちの信仰を密かに続けられる寺社を血眼になって探し(もしキリシタンが檀家だと発覚すれば僧侶まで死罪である)、そこにマリア顔の観音像や十字架の入った御神体を収めさせてもらい、表向きは神仏を拝むふりをしながら明治維新まで彼らの神を信仰し続けていたというのである。
     折口

キリシタンというと高山右近とか細川ガラシャなどが有名だが、この人たちは皆高貴な身分の方たちである。それに九州の島原ならともかく江戸開府頃の中野である。当時の山の手なんて見渡す限りタヌキ村に違いないから宣教師なんか来るもんか!と大学生時代の筆者は父の話を小馬鹿にしたが、父は「先に日本へ来たイエズス会は確かに上流階層をターゲットにしていたが、後から来た別の信徒会はハンセン病患者や社会の最底辺の人々など社会的弱者へと布教したんだ。なので関東の村落部にキリシタンがいても全然おかしくないんだよ」と昔風の学校教師らしい生真面目さで筆者に説明した後「もうこの話はお終い」という具合に黙り込んでしまった。
     Hosokawa   

さてそれから約30年たった昨年のことである。フィリピン移住後はやることが無くて毎日ヒマなので日本とフィリピン交流史なんてものを調べていたら、そこにはフランシスコ会に属する二人のスペイン人宣教師が1601年に東京・浅草にハンセン病施設を設立したと書かれていた。あれっ?これは父が言っていたことではないか・・?そう思って二人の宣教師の足跡を追うと京都、江戸、東北へ布教して回り多くの日本人信徒を得たと書いてある。そしてこの二人の来日前の動きを調べてみると、スペインからメキシコを経てフィリピンのマニラに渡り、日本から密航してきた信徒の下で日本語学んだあと日本へと旅立っていったのだ。
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筆者の父親は骨の髄まで無神論者らしく葬式無用、祭礼無用、墓無用と言い残して死んでいったのだが、この二人の宣教師がマニラから旅立っていったという一文を目にした時に少しばかり因縁めいたものを感じてしまった。マニラから来た宗教を300年以上密かに祀る神社に生まれた父親と、カトリック信者のフィリピン人と結婚してマニラに住む息子。父親の指示に逆らうようで悪いが、今日はオヤジの遺影を持って教会に冥福を祈りに行くことにしよう。

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