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直しのケイコ

2017/11/08 14:16:38 | 日記 | コメント:0件

少し前の日記で日本のモノ作り力が衰えてしまったのは製造現場が海外移転してしまったからだ・・と書いたが、この説明は中身を省略してしまったため何となく分かったようで分からない方もおられると思う。それで今日は2年前に書いたが結局ブログにアップせずに放ったらかしにしていたボツ原稿を上梓することにした。よって話が古い事をお許しいただきたい。

****ボツ原稿****
先日の日記で韓国サムスンが受入検査時に不良と判定された部品でも弾かずに生産ラインに投入するのは賢明である、つまり製造過程で不良製品がボコボコ出て来ることは経営合理的に正しい!という事を書いたが、これを読んで「危ないものは最初からはじいた方が良いのではないのか?」と思われ方が多いのではないだろうか。

しかしメーカーに勤務した方ならよくご存じの通り、味噌もクソもとにかく流して製造工程で出来るだけ良品していくというのは日本のモノづくりパワーの根源なのである。例えば大学進学率を高めるためウチは優秀な生徒しか入学させません!という学校と、成績が悪くとも何とかそれなりの大学には合格させます!という学校のどちらを優秀と認めるかと同じ理屈である。

ところが人件費の高騰と円高の進行で日本生産のコスト高が進み、製造工程は出来るだけロボット化し、国内工場では生産稼働率を上げるために受け入れ部品の基準を厳しくしたあたりから風向きがおかしくなってきたのだ。筆者は元々は技術屋だから断言するが、品質的に怪しい部品のせいで生産効率は落ちる反面それとは別の付加価値を産んでいたのだ。





筆者のいた会社は新入社員は全員3か月間製造現場で実習させられるのだが、生産ラインに立っている若々しいネーちゃん達とは別に後方の作業机に座ってせっせと完品(生産ラインで上がってきた完成品)をいじくってるオバちゃん達がいた。どんな工場も同じだと思うけれども所謂「直し屋」と呼ばれる人たちである。

このオバちゃん達は生産ライン歴20年前なんて強者ばかりで、その長い年月の積み重ねから不良と認定されて完品のどこに問題があるのかをちょっと弄るだけで判るのだ。中でも製造課長よりも偉いと恐れられていた百瀬ケイコという女ボスは「あー、これは○番部品の曲がりが原因、あとこっちはラインの18番にいる髪の毛まっキンキン娘が調整弁を緩めたからだよ」とほんの数秒見ただけで出て来る。

マイクロスコープで見てみるとまさしくその通りなのである。当然ケイコの職制上の上役(実際は下僕以下)と品質保証部の若造は組み立て方法の修正指示を下し、そして受け入れ部品の外注を呼び出して改善要求を出すのだが、その最中に直しのケイコは「こんなのはあたしの出る幕じゃないよ」と黙って目の前に積まれた不良品の回路を変えたり部品をピンセットで曲げたりして良品に作り替えているのだ。

ここで冒頭に書いたことに戻るけど、要するに最初から10個の不良候補の部品を弾いて残り90個を生産ラインに流しても最大90個の完品しか上がらないが、不良候補も入れて100個流せば流しのケイコと子分たちの手で97個くらいは良品に出来るのだ。そして直しのケイコの深い洞察力は不良の中でも最悪の設計不良発覚の時に発揮されるのである。





製造段階で誰かがへくったとか、仕入れ部品が曲がっていたという製造不良は誰かの頭をボコッと殴って反省させればすぐに解決できるお気楽な不良であるが、設計不良と言うのは三菱自動車のクルマのように構造的に間違ってます、つまり生まれながらにして不良になってしまいます、あるいは失敗するように設計されてます・・というトンでもない不良のことである。

筆者も製造実習中に「これは設計不良だよ!今すぐ設計読んで!」とケイコが叫ぶのを度々見たのだ。この時は直ぐに製造課の主任や課長、それと品質保証部の担当までもが飛んできてケイコの説明を聞くや主任は電話をかけて「オマエ!今すぐ下に降りてこい!」と叫んだところ、ものの数分で筆者の10年くらい上の設計者(東工大の工学修士様である)がおずおずと現れたのだ。

直立不動でケイコの罵声を聞く設計者。やがて事態を把握した製造課長は生産管理部に電話をかけて「緊急事態発生!このロットは生産中止!ただちに対策会議を要請する!」で一丁上がりである。その日から設計者や生産管理屋は対応に追われて毎日午前様になるけれども、消費者クレームを未然に防げたお偉方たちはホッと胸をなでおろしているのだ。

さて設計ミスを起こした設計屋は「高倉って苗字をボンクラに替えちまえ!」「お前は毎日床磨きでもしてろ!」とあちこちで罵詈雑言を浴びせられるが、設計部のエース達はみんなこうやって鍛えられていくのである。実際ケイコさん達には若いうちにさんざんドヤされといた方がいいぞ・・と後日設計部に配属された筆者は上司に言われたものだ。





不良になる可能性もある部品も生産ラインに投入してガツンガツン作る。不良を徹底的に弾く一方で出来るだけ良品に作り替えていく、そして不良の原因を的確に察知し素早く改善に繋げていく、設計開発と出荷検査の距離感の近さ、同じ目線に立って一緒に問題を解決していく、これこそが日本のモノづくりの強みだったのに、トヨタ看板方式への過剰な盲従と人件費の安い海外への工場移転を推進したためにこの力が落ちてしまったのだ。

そしてそういう合理化の中で真っ先に職を失ったのが女ボスだったケイコたち現場組である。ケイコのいた工程は中国へと丸ごと移管されてしまったのだが、設計者はそのまま日本に残ったために製造現場から設計者へのフィードバックが途絶えてしまい、2000年代になると重大な設計不良が頻発する事態になったのである。

さて日本のメディアでは「シャープ買収で日本のモノづくりが失われてしまう」などと嘆いているが、これは半分は正しいがもう半分は間違いである。日本のモノづくりを根底から支えていたのは実はケイコらうるさ型の現場組で、現場が数千キロ離れた外国に移り、人間も短期雇用の中国人に入れ替わったために設計開発部門との連鎖が途絶えてしまった現在の日本企業はとっくの昔に片翼飛行の飛行機になっているのだ。

ちょっと感情移入しすぎて文章が散漫になり、おまけにどういう終わり方をしてよいか分からなくなってしまったが、今回のシャープの騒動を見るにつけ自分が新人だった頃のモノづくりの王者日本と、スーツを着たお上品な公家たちで溢れた現在の日本企業のギャップを今さらながら痛感してしまう。90年代に日本のメーカーが犯した過ちは余りに大きい。その代償を払う時期はまだこれからも続くはずだ。






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