家賃のために粉骨砕身する人たち

今回2週間ほど香港とマカオを訪れて友人たちと旧交を温めてきたが、彼らと話していると決まって出てくるのは「もう香港を出る潮時だな」という話だった。そう聞くと中国に呑みこまれて自由が無くなっていくストーリーを皆さん想像するだろうが、目下彼らの頭痛の種になっているのは政治よりも家賃の高さである。

空いた時間を見つけるとバスに乗って香港の隅々を出歩くのが筆者の趣味で、今回も元郎(ユンロン)や屯門(チュンムン)など東京なら多摩市あたりに相当する郊外住宅地を散策したのだが、ふと不動産屋を見ると店の外に「海景良眺70平米660万香港ドル」「豪華三房88平米800慢香港ドル」なんて張り紙が出ているのを見つけた。

現在の為替レートは1香港ドル14円だから億ションである。この庶民のためのベッドタウンのマンションがトンでもない値になっていることを知って驚く筆者。今から5年前に筆者がいた頃にはこの界隈は大体200万香港ドル代が主流で、400万ドル(5600万円)を超える物件などまず見かけることは無かったのだから、どうやら不動産価格は倍になってしまったらしい。

これが賃貸となると1か月1万香港ドル代(14万円~)もあるにはあるけれども、大抵は2万香港ドル代(28万円~)である。日本と違い香港では家賃は物件価値の200分の1(0.5%)から安くても300分の1(0.33%)の範囲内で設定されるから、不動産の価値が倍になれば家賃は最低でも50%アップとなってしまうのだ。

「もう生きていけないのよ!」とため息をつくかつての同僚カレン。彼女は2003年の不動産価格暴落時に家を買おうとしたが、運悪く夫が病気になって失職してしまったためローンが組めなかったのだ。以来ずっと郊外のアパートを借りてチャンスを伺っていたのだが、残酷にも事態はカレンの思惑とは全く逆の方向で進んだのだ。





かつて筆者の下で働いていた香港人のうち家を持っているのは3割くらいで、7割は賃貸物件に住んでいたのだ。それも年齢が下がるにしたがって持ち家率はグンと下がり、不動産価格がグンと上がったここ10年ほどに社会人になった世代はほぼ全員が狭くて不便なアパートを借りているのが実情である。

とんでもない金持ちもいるけれど、国民の9割を占める「他人に使われる」香港人の給料は日本の半分から6割程度と安く、一方不動産の方は日本の倍以上するのだから夫婦共稼ぎでないと生きていけないのである。そして日本と違って公営団地が極端に少ないことから、どの家庭もべらぼうな価値が付いたアパートを30年ローンで購入し、日夜汗水たらして働いているのだ。

ただし彼らを雇う側から言わせてもらえば、毎年の給与交渉だって5%上がれば良い方なのだ。日本のお偉いさんからは「コスト削減のためもっと業務を中国大陸の事務所に移せ!」と罵られているのだから雇用が繋がっているだけでも有難いと思って欲しいくらいなのだが、しかし毎年10~15%する不動産価格のせいで香港人たちはもう生きていけないのだ。

それと家賃の高さを嘆いているのは何も家を買うタイミングを逸した庶民だけではない。香港の街中にあるレストランの店主たちが物件を所有しているのは稀であり、筆者が香港駐在時代にいつも利用していた日本料理屋の大将も「いくら一生懸命働いても全部家賃に消えていくんですよ」とため息をついていたのだ。

家賃が高いから食材の質を落とし、明らかにサービス業に不適格で粗野でまともな教育も受けていない従業員を雇う。無駄を排除するためにメニューを減らす。それでも採算が取れないから値上げする。今回の旅で筆者はかつて楽しんだ店の大半がつぶれていて、残った店も前述のように劣化していた。これはもう・・駄目だね香港は。







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