一寸先は闇

2016/11/09 06:38:08 | 昔話 | コメント:0件

アジアで営業の仕事に従事された方なら密貿易業者との付き合いは随分してきたはずである。もともとアジアのどの国も経済には暗い軍人や共産主義者が治めていたために関税がウン十%と非常に高かったから、輸入関税など払っていたら商売にはなるはずもないのだ。

まあ現地にノックダウン方式の合弁工場を作って税コストを下げる方法もあるけれど、これが出来るのは資本に余裕のある企業だけだし、それに各国に工場を作るとなると効率的には非常に悪いから、結局は密貿易業者に品物を流す方が利便性が高いのである。

一旦香港やシンガポールら自由貿易港に荷揚げされた製品はスラバヤからラホールまでのグローバルな地域にコンテナ船やトラック、あるいはロバの背中で運ばれて行くのだが、一方カネの方は各地の密貿易業者が持っている香港の銀行口座間という案外狭いところで決済される仕組みなのである。

例えば家電業界にいた古老の話だと、1970年代以前の全アジアの取引のうち7割は密輸で賄われていたそうだが、80年代になると関税率の低下や域内自由貿易制度の拡充、それと各国の取締強化によって密貿易は三分の一以下に減り、90年代には旧モデルのショッタレ販売以外は密輸がごくごく少数になってしまったそうである。





この古老は共産軍の支配下に入ったラオスで捕まってしまい、差し出した賄賂を叩き返した政治将校から「お前は死刑になるかもしれないぞ!」と脅された話を面白そうに笑いながら話していたが、それを聞いた筆者は思わず苦笑いしていたのだ。と言うのは筆者が当時担当していたのは99.9%密貿易の世界で、しかも敵に回すのは天下の死刑大国である中華人民共和国だったからである。

筆者が扱っていたのは電子部品で、80年代までは香港域内にある無数の中小企業相手に販売していたのだが、90年代以降は中国が世界の工場と化したため、香港域内の工場から香港人顧客が中国国内に作った工場へと送り先が変わっていき、世紀の代わり目あたりには中国人が中国内に作った工場向けが4割くらいに達していたのだ。筆者はこの4割ビジネスの担当を押し付けられたのである。

中国国内に輸入する際には関税として申告単価の25%、さらにVATとして15%が徴発されるのだが、密輸による運び込み費用は3%程度しかかからぬから幾ら申告単価を低くしようが密輸入が減るはずもない。それと一旦部品を正規輸入しても加工後に正規輸出すれば支払った輸入関税は還付される制度にはなっていても、それを利用出来ない理由が筆者の顧客にはちゃんとあったのだ。

中国国内の顧客たち、つまり色んな部品を買ってきて最終製品へと組み立てし、アメリカなり中近東向けに売る会社はどれも正規には存在してなかったからである。いや実際その会社に行けばちゃんと建物があって数百人の女工たちが働いているし、社長室に行けば営業や調達担当者らがやかましく電話口で叫んでいるのだけれども、ここで言う存在しないとは法律上あるいは登記上は存在していない・・という意味なのである。





つまり白タクと同じなのだ。正規に登記されていないから正規輸入も出来ないし正規輸出も出来ないのである。それじゃ不便だから正規登記すればいいだろうが!と普通の日本人は思うだろうが、そうすると法人税や固定資産税、社会保険などを払わなければならなくなるので、カネに対する執着心が普通じゃない中国人達は嫌がるのだ。

今でもそうだろうが、中国にはこういう白タク企業が数十万いや数百万社あって彼らは税金なんか一元も払って無いのである。そして中国担当だった筆者の仕事とはこういった有象無象の白タク企業相手に切った張ったの値段交渉を繰り広げ、同時に販売チャンネル(と言うか密輸ルート)を整備してビジネスを拡大していく事だったのである。

当然中国政府にとっては巨額の税収損失になるわけだから、共産党は「密貿易を根絶やしにせよ!」と言うけれど、資本と技術蓄積が進んで産業基盤が盤石になるまでは悪事に対しては目をつぶった方が得策と言うのが本音であったし、それに上に政策あれば下に対策ありが本場の中国では、地方政府の役人から税関職員まで白タク企業や密輸業者によって賄賂漬けになっていたのだ。

かく言う筆者も中国の顧客や密貿易業者の主催する宴会の席では色んな役人達と乾杯を重ね、なんか問題があればオレに頼みに来い!などと言われて実際そうしたケースも何度かあったのだけれども、意地汚く酒や女に食いついている下級役人を除くと全員が全員とも「どこかで潮目が変わって一気に締め付けが厳しくなるだろう」と割と冷静に思っているのを知って背筋が寒くなった覚えがある。





もしも仮に清廉潔白な人物が中国のリーダーになったり、あるいは(こっちの方が遥かに可能性が高いだろうが)不正と汚職の親玉である江沢民ら上海派が失脚して共産主義青年団が政権を取れば当然利権潰しに走るわけだから、その時にはこの宴会場にいる全員ともお縄頂戴の身分になるだろうな・・と思っていたのである。

しかし密輸業社の話だと、もしもその日が来てもあんたら外国人まで根こそぎ逮捕!となると外交問題に発展するから、たぶん一罰百戎という方式を取るだろう!。つまり日本人一人を密輸の罪で拘束し重罪に課すことで見せしめとし、他の日本企業が怖がって密輸に手を貸さないようにするんだよ!と言ってジッと筆者の顏を見るではないか・・。

それはオレだと言いたいのか?と聞いたが相手は何も言わない。だけどあんだけ中国国内で名刺を配ったんだから中国の税関は当然オレの名前は掴んでるはずだし、それにこの業界ではオレの会社が売ってる基幹部品を使わないと最終商品にならないから、数千社ある白タク企業群に大打撃を与えるのなら一番手っ取り早い方法は・・と考えた時には生きた心地がしなかったね。。

さて筆者をさんざん脅かした密輸業者の親父は本人の代わりに奥さんが拘束されて巨額の保釈金を払わされたり、税関のボスが汚職で刑務所に入れられたりと色んなアクシデントにみまわれたが、幸運な事に筆者はその日が来る前にアーリーリタイアをしたので家電業界の古老の様に昔の話をここに書いてるのだが、正直言って古老みたいには笑えないですね、はい。






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