気をつけよう暗い夜道と黒社会

おい!ニュース見たか!ユーロ社(仮称)の支店長が殺されそうになったぞ!と電話がかかって来たのは今から20年前のある日のことである。ユーロ社というのはヨーロッパに本拠を置く競合メーカーで、業界ではA社と筆者のいたB社とジャップ社の日本勢3社とヨーロッパのユーロ社が四つ巴のシェア競争をしていたのだ。

事件はこういうことであった。深夜自宅近くを歩いていたユーロ社支店長は突然3人組に襲われ、一応生命は取り留めたものの頭蓋骨陥没で一時期意識不明の重体になってしまったのである。警察はユーロ社が香港の犯罪組織と関わりを持っており、何か重大なトラブルに発展したと見ている・・という報道であった。

しかしこのニュースを見た筆者は「そんな事誰でも知ってるわい!」と吐き捨ててしまった。ユーロ社が香港でも悪名に高いトニー・チャンを販売代理店に指名してからというもの数々のトラブルに見舞われ、つい最近この悪党に対して絶縁状を突きつけていたことは業界の誰もが知っていたからだ。

香港に支店を持つのなら何百と言う顧客相手に直接販売しているんだろう・・と思う方もいるだろうが、売掛金の回収リスクや他の商品との抱き合わせ販売など顧客利便性、それとやはりマンパワー上の問題から直接販売は大手顧客だけに絞り、売上の7割程度は香港人がオーナーの販売代理店経由で賄うのが電子部品業界の一般的なスタイルであった。





そしてユーロ社も90年代初頭に事業参入した頃は堅実さで知られた販売代理店2社を活用していたが、ビジネス規模の急拡大により手が回らなくなったため新たに代理店に任命されたのがトニー・チャンの会社である。この男、元々は債権回収を生業としており香港の黒社会(マフィア)一員だとの悪評のある人物であった。

一口に販売代理店と言っても顧客サービスに優れて評判は良いが保守的過ぎて成長が期待できなかったり、反対にアラは目立つけれども競合他社からシェアを分捕ってくるだけの野性味があるなどそれぞれ一長一短が有るわけで、それをポートフォリオ式に巧く組み合わせて業績をあげるのが支店長の腕の見せどころなのだ。

ユーロ社は新興という事もありずっとシェア4位だったからヨーロッパ本社は「何が何でも日本企業のシェアを切り崩して3位を目指せ!」と命じたのだろうが、これはユーロ社にとっては致命的なミスとなってしまった。トニー・チャンはユーロ社の言う事を聞いて地道に客を増やすつもりなんかハナから無く、最初からユーロ社そのものを食い物にする腹だったのだ。

営業担当にバックマージンを渡して懐柔し、特別に安い値段や支払い期間の延長を勝ち取るのは誰でもやる事だが、トニー・チャンが得意なのは狙った相手の内部に自分の言う事を聞く人間を仕立てる事で、標的になったのはユーロ社香港支店の業務主任だったドルフィン・チューと言うどこの会社の支店や営業所にもいるうるさ型、しっかり型の女主任であった。





仕事上ドルフィンはユーロ社の全てのデータにアクセスする権限があったから、情報を取るにはこれ以上の存在は無いのである。それでトニー・チャンは彼女の唯一の弱点、つまりあまり見てくれもパッとせず三十路で恋人もいない寂しい女だった点につけ込み、若い男とカネを与えて籠絡したのだ。

どこの会社に何を幾つ幾らで売っているのか、今後3ヶ月なり半年先はどういう需給バランスになりどの製品群がモノ不足になるのかを把握すれば無敵である。案の定ユーロ社の他の2つの代理店は徐々に劣勢に追い込まれ、やがて1年もするとトニー・チャンへの徹底的な依存体質へとなり始めたのだが、そうなると次の一幕がはじまるのだ。

保険代理店や運送会社、広告会社、それと中国に作った修理サービス委託先などユーロ社香港支店のアウトソーシング先がトニー・チャンの仲間たち(黒社会の企業舎弟)にどしどし切り替えられていったのである。その頃にはドルフィン以外にも鼻薬を嗅がされたスタッフが増えていて経営の根幹にまで浸透しつつあったのだ。

異変に気が付いたヨーロッパ本社が送り込んできたのが新任の支店長だったのである。彼はトニー・チャンに取り込まれてしまったドルフィンら香港人スタッフを即座に清風運動を取り組み始めたのだが、その結果が前述の路上での襲撃事件となってしまい、数ヶ月後には病院から空港に直行して故国へ帰る身となったのだ。





一時期世間を賑わせたこの事件の捜査は何故だかさっぱり捗らず、ついにはICACという経済犯専門FBIまで登場したのだが誰一人逮捕されることもなく幕引きとなり、結局ユーロ社はしかるべき代理人を立ててトニー・チャンと交渉し、手切れ金として十数億円支払う事で黒社会の連中から手を引いて貰うことが事が出来たのだ。

そしてこれだけ悪評が立ったトニー・チャンだが彼は逮捕される事もなくぬくぬくと他の会社の二次代理店として商売を続け、やがて10年後に再び騒動を起こす事になる。それは筆者のライバルである日本企業ジャップ社で、まず同じ様にシステム担当の香港女性社員が籠絡され、やがて他の代理店を蹴落としてトニ一・チャンへの徹底的な依存体質にはまり込んで行ったまではユーロ社と同じだが、その後がちょっと違うのだ。

ジャップ社の日本人支店長までもが金と女で籠絡されてしまったのである。結果としてジャップ社の別の主力商品の中国販売代理店や中国工場進出プロジェクト、さらに東南アジアのさる国での合弁事業などで得体の知れない連中に食い尽くされてしまうのだが、これはこのジャップ社支店長のその後を含め結構面白い話なので後日別の日記としてご披露する。

さて日本では元住友銀行員がイトマン事件の裏幕を書いた本が評判になっている様だが、それに比べて規模は遥かに小さいけれども中国文化圏では似た様なケースはごくごく普通にあって、エッ!と驚くような企業がぬかるみに足を取られていたりするのである。海外駐在と聞くと一見華やかな印象を受けるかも知れないが一寸先は闇なのである。






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