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説明好きな台湾黒道

まだ新入社員に毛が生えた頃に筆者が営業マンとして始めて担当したのは台湾で、売上の大半を占めたのはエイサーやBenQといった新興ハイテク企業であったが、筆者がいた会社が昔から作っているある特殊な電子部品だけを買い続けた別の業界があって、ここは競合他社もいなかったためか90年代には随分と利益貢献してくれたのである。

その業界とは時計業界、ヨーロッパやアメリカ、中近東にある時計ブランドへOEM供給するメーカーが台湾国内に数十社あって、筆者の会社の製品は針式では無く液晶表示式の時計に結構多く使われていたのだ(ただし台湾の顧客たちは針式、液晶式にくっきり分かれていたわけでは無く両方混在しているケースが多かった)。

そんな中の一社が台北の目抜き通りにオフィスを構えるE社で、筆者は今回自分が新しく台湾担当になりました、よろしくお願いします!と挨拶しに行ったのだが、そこら辺りで八百屋でもやっていそうな冴えない感じの社長の話を聞いているうちにこの会社はなんか変だな・・と思い始めたのだ。

社長が言ってる事業規模だとこんな一等地のビルにオフィスを構えられるはずが無いのである。輸出単価1個10米ドルの時計を月に4万個ほど売ってます!というと年間売上は5億円ちょっとしか無く、この業界の粗利は2割が良いところだから、数十人の工場労働者と数人の事務所スタッフ、さらに諸経費を差し引くと利益ゼロどころか大赤字のはずである。





しかも値引き好きな台湾人にしてはこの社長は筆者の提示した値段を「まあそんなもんだろう」と鷹揚に受け入れている・・。もちろん商才の無い社長というのも世の中いるものだけれども、ここに来た時に最初に感じたカチッとした雰囲気はむしろその逆、つまりビジネスとして巧くいっている会社特有のものなのだ。

それでなんかこの人変だなぁ・・と思っていたのだが、突然「社長!ちょっと失礼します!」と部下らしき女性が部屋に入ってきて耳打ちするなり社長は顔を顰め始め、筆者の方を向いて「悪いが十分ほど席を外す」と言って部屋から出て行ってしまったのだ。そこで一緒に来た台北支店の黄さんという同僚の女性に筆者の疑問を説明したところ「そうですね・・そう言えば確かにこの会社変ですね」と同意した。

その時背後の戸棚に商品サンプルを入れたトレーが沢山積んでるのを発見したのだ。おい!ちょっとどんな時計を作っているのか見て見ようじゃ無いか!と席から立ち上がり、不安そうな顔をして止めようとする黄さんを尻目にガラスの扉を開けてみたところ・・・、ああっ!!!、これは!!なんということだ!!と衝撃を受けたのだ。

そこにあったのはロレックスにカルチェ、オメガにブライトリングなど錚々たるスイス時計の・・・ニセモノなのである(ホンモノならこんな鍵もかけてない戸棚に数百個も無造作に置いとくはずが無い)。しかも高専や工学部出身で金属加工の現場を経験した人間でもホンモノとの違いは見つけられないのでは無いか・・と言うくらい精巧な代物だ。





しかも大変まずいことに十分後に帰ってくるはずの社長が筆者が戸棚の中を覗いている最中に部屋に戻って来てしまい、慌てた黄色さんが北京語で「この人はどんな商品を作ってるのか見たかっただけで!」と取りなしてくれたのだが、この社長は筆者の方を振り向いて「み・た・な・」という表情をした。はい・・見てしまいました。

こりゃエライ事になるぞ・・と心臓が止まる思いだったが、この社長は筆者の方に歩いて来てガラス棚の中から幾つかのトレーを取り出し、それを机の上に並べて「これはなんでも無いんだ!」といくら考えても理解不能な台詞を発言した後、時計を一つ一つ手にとって・・品物を説明し始めたのである。

ディス ロレックス オールモスト セーム!とかブレスレット ストラクチュア ベター ザン オリジナル!などと説明し続ける社長。ひょっとしてこの人はオレに売りつけようとしてるのかな?と思い、生命の保証の為に一番安そうなブライトリング(のニセモノ)を買おう!と言ったら「ウチは輸出専門で、それも1タイプ最低100個からしか売らないんだよ」と断られてしまったのである。

数時間後、台湾支店の中西支店長にこの話をしたら「そいつはお前の事をよほど気に入ったんだな」とちょっと首を傾げたくなる一言の後で、台湾の時計メーカーはどこも副業としてニセモノを作っているけれど、そこまで精巧なブツを、しかも1タイプ当たり最低でも数百万円単位ということはE社の社長はヘイタオの一員に違いない・・と謎の単語を言ったのだ。





ヘイタオってのはね黒道って書くの!ようするにチャイニーズマフィアだよ!日本と違ってヤクザ専業ってのは台湾じゃあんまり居なくて、飲食店に運送業、保険代理店に輸出業者とかみんな表向きの会社を持っていて、企業舎弟っていうより企業ラオパンなんだよ!と面白そうに笑う中西支店長。だけど当時26歳でつい2年前まで世間知らずの設計屋やってた筆者は・・生きた心地がするはずもない。

しかしその後のE社との取引は別段何事もなかったように続き、筆者もこの社長とは少しは打ち解けて話が出来る様になったものの、時々社長が見せる冬のバイカル湖の様な視線には流石に慣れ親しむことが出来ず、1年後に香港支店に栄転して台湾担当から離れた時には正直ほっとしたものである。(ただし香港ではもっとシャレにならない客の担当を押し付けられたけど・・)。

そしてそれから2年後に台湾担当の後任者が別業界へ転職してしまったために筆者は再び台湾担当も兼務させられてしまうのだが、E社の社長はその間に起こった組織犯罪撲滅のための大規模摘発に引っかかりそうになってパナマだか南アフリカへとトンズラしてしまい、結局再会することは叶わずにそのままになってしまったのである。

さて筆者は今でも時々E社の社長は今ごろ何をしてるんだろう?と考えたりするが、あのニセモノ時計の精巧さと真剣そのものの表情で説明する表情を思い出すたびに今でも時計をやっているか、あるいは偽ダイヤモンドや偽ドル札など手の込んだブツを取り扱っていて、自分の作ったスイーツに絶対の自信を持つパティシエの様に「この品物は・・」と今でも誇らしげに説明しているに違いない・・と思っている。






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