真夏の不気味サークル

今から30年前のことである。学徒援護会という学生版ハローワークで紹介された交通量調査のバイト中に山口君という早大生から「この後自分は人生相談サークルに行くのだけれどもキミも来ないか?」と誘われることになった。

実は筆者は当時深刻な悩みを抱えていて山口君にたびたび愚痴をこぼしており、さらにそのサークルの場所がバイト先からわりと近くにあるので「ちょっと危ない宗教団体かも・・」という危惧はあったものの山口君の誘いに乗ることにしたのである。

埼玉県のある駅から随分長いこと歩いて着いたのは○○○○○会館というプレートの掛けられた建物で、その名前は宗教というよりも植物か農業関係の団体を想像させるものなので正直ホッとしたのだが、会議室らしき小部屋に通されたときに筆者の安堵心は曇り始めた。

そこには牛乳ビンの底みたいな眼鏡をかけた痩せぎすの女(爬虫類系の顔つきをしている)と明らかに頭が足りなそうな顔をした坊主刈りのデブ男の先客がいたのだが、この二人からはマイナスのオーラがにじみ出ていたのである。

一応彼らに挨拶をしたのだが、彼らは筆者の目は見ずにただコクンと頭を下げただけ・・。その建物自体がやけにシンと静まり返っている上に彼らの陰気な警戒心が筆者の心理に何とも言えぬザワザワ感をもたらしたのだが、やがてドアが開いて四十過ぎと思われるオバちゃんが入って来るや流れが一気に変わったのだ。





このオバちゃんは故林家三平師匠の奥方である海老名香葉子(泰葉の母と言った方が良いかも)をちょっと崩した顔をしているのだが、今まで昆虫の様に黙り込んでいた陰気な二人組が急に何かこみ上げてきたような表情になるや先を争うように口を開け始めたのである。

だけどその内容というのが「今日バイトで先輩にお前なんか止めちまえ!って言われてしまいましてぇ・・」とか「専門学校で友達が未だに出来なくて・・」みたいな何処にでもある暗いな話なのだが、この二人はちょっと異常なくらいクヨクヨ悩んでいる上に話の終わりは「生きる意味が何なのかわからなくて・・」とか「生まれてこなければ良かった・・」で帰結するのだ。

ウウッ!なんだコイツらは!と筆者はちょっと背筋が寒くなったが、さらに不気味だったのは海老名香葉子似のオバちゃんがずっと無表情のまま「誰でも違いはあるモノなのよ」と割とマトモな受け答えをした後で「でもアナタは素晴らしい」とか「価値のある人間なの」と意味不明な結論を言い続けることであった。

そしてついにバイト仲間の山口君が「キミも相談に乗ってもらえよ」と言うので筆者も仕方なく自分の問題を話したのだが、このオバちゃんは無表情のままこれまた実に的確な返事をしただけで、筆者に対しては「あなたは素晴らしい」みたいな事は一切言わない・・。

それにオバちゃんは「アタシにはアナタの背後霊が見える」みたいな超常現象的なことを言わないだけでなく、筆者が恐れていた多宝塔や仏壇、印鑑、高額なお布施、あるいは一袋千円と高額な珍味を買え!などは一切要求して来なかったのだ。





しかし筆者の前では牛乳ビンの底メガネの女が感極まって「生きてていいんですかぁ!」と泣き始めるし、それを山口君が肩を抱きかかえて慰めるわ・・でまるで霊能者の除霊会の様相を呈してくる。こりゃ一刻も早く場を辞さないと・・と思ったが、運よく筆者は大の方の便意をもよおしたのでトイレへと逃げることにした。

便座に座りながら「どうも宗教じゃ無さそうだがココはヤバいんじゃ・・」と考えていたのだが、さてそこで育ちの良い筆者は「残り香を消さなければ!」と思いポケットの中を探ったところライターはタバコと一緒に会議室に置き忘れたまま・・。

それで仕方なく換気のためトイレの小窓を開けたのだが、窓から見える外部の風景を見た瞬間に筆者はゾーッと凍り付いてしまった。何とそこはあたり一面が広大な墓場だったのだ。そうか、だからこの建物はこんなに静かだったのか・・。

いま考えれば自殺しそうな人間や墓場の傍に立つ家なんて別段珍しい事でも何ではないのだが、当時の筆者にとっては墓場の傍で生きる死ぬを討論しているあの空間がまるでこの世とあの世の境界線の様に思えてしまい全身の鳥肌が立つ恐怖を感じたのである。

それと海老名香葉子である。もしもあのオバちゃんが「アナタは素晴らしい」ではなく「この世はアナタにとって地獄なのだから早く楽になりなさい」と言ったとしたら、おそらくあのマイナスオーラ二人組は間違いなく自死の道を選んでいたに違いない。

ひょっとしてあのオバちゃんは死の世界とこの世の間の門番で、あらゆる苦しみを背負いって擦り切れてしまった人たちの自死の罪の有無を見極める役を果たしていたのでは・・・。あのオバちゃんの無表情さを思い出すと今でもその疑念はぬぐい切れない。






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1986年か。 
筆者さんは、昔から、ある種の霊感があったのですね。

生死の境をさまよって生還した人が、覚えている夢体験?で、地上と天の国との中間地点の世界があるそうで。
ここから、地上に落ちれば生還、天に昇れば、他界。

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