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マインドコントロールが得意な台湾ヤクザ
2016/10/26 05:45:51 |
昔話 |
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期待の新商品がリーマンショックのおかげですっかりコケてしまい、こりゃ先進国だけ売り込んでちゃダメだ・・という事で東南アジアやインド、東欧など新興市場を回っていた時のことである。インドネシアのジャカルタで顧客と商談した後で一緒に夕食となったのだが、顧客から「今夜別の取引先も同席するけど良いか?」と言われた人物を見てアッ!と驚いてしまった。
サニー・パン。台湾の台南にあるA社の大株主かつ総経理で、ここは10年前まで筆者の取引先であった。筆者が働いていた会社は液晶部品を取り扱っていたために90年代までは時計業界との関わり合いが結構あって、サニー・パンの会社にも定期的に訪問していたのだが、筆者は彼では無くサニー・パンの義兄で董事長のジョージ・リンとだけ話していたのだ。
と言うのはA社は真っ当な時計メーカーという顔とは別に、1980年代から90年代前半にかけてその筋では知らぬ者の無い精巧な偽物スイス時計の供給者と言う2つの顔を持っており、サニー・パンはそのニセモノ時計部門の責任者を務めるとともに、台湾ヤクザ組織の企業舎弟と言うかヤクザそのものだったからだ(ミニ許詠中と想像していただくと良い)。
「あいつは絶対に付き合っちゃダメね」と台北支店の物知り楊さんが言っていた通り、90年代終わり頃の組織犯罪摘発運動の際にA社から大量のニセモノが押収され、見事サニー・パンは刑務所の中の人となったはずなのだが、それがどう言う訳か十年後ここジャカルタの大手顧客の食客として筆者の前に現れたのである。
「紹介しよう!彼はサニー・パン。ウチの会社のコンサルタントとして業務全般を観てもらってるんだ!」というインドネシアの取引先の若いオーナー。どうもインドネシアじゃ情報が伝わって無い様なのと、同じ福建系という気安さからか選りに選ってこんなとんでも無い野郎を雇ってしまったようである。
「私はね、もう自分の儲けなんかのために一生懸命やるよりも、自分が培った経験を若い世代に伝えて行きたいと思ってるんだ。それが老人のやるべきことなんだよ」などいけシャーシャーと抜かすサニー・パン。このくそヤクザが・・と筆者は呆れたが、今でも背後に変なのが居そうだからここで何か言うのは命取りだ。
それで黙って聞いていたのだが、これがまあ実に調子が良いと言うか、自分がスイス時計業界の超大物とビジネス戦略について議論した時・・なんて話をするのだが、正確に言うとお前が話したと言うその大物の会社のブランドをつけたニセモノを売り捌いて告発され、その大物の顧問弁護士から巨額の賠償金を課せられて計画倒産したんだろうが!と思ったが、ここで口に出して言う訳にはいかない。
ところが・・サニー・パンのインチキ話に気を取られるあまり、筆者と同行した香港人の部下アンドリュー(この客の担当者である)の中に重大な変化が起こっている事に筆者は気がつかなかったのだ。なんとアンドリューはこの犯罪者の言うことを間に受けてしまい、たった2時間一緒にいただけなのに心酔してしまったのである。
女性を交えた2次会を終えホテルに戻った筆者はアンドリューに「ちょっと話したいことがある」と自室に呼び、あのインドネシア顧客とキミは年恰好も同じくらいで、セールスマンと客というよりも友達みたいに気が合う様だから・・と言って、サニー・パンの本当の姿を説明し、お客にそっと伝えて欲しい由を頼んだのだ。
そしたらアンドリューは「サニー・パンはそんな人じゃない!」と叫びだし、あの人が言った若い世代に自分のノウハウを!という話を聞いたでしょ!あれはサニー・パンの心からの思いなんだよ!それを判らないなんて!あんたは人間の心を持ち合わせてないのか!とかな〜り感情的になってしまったのである。
お前・・洗脳されやすい奴だったのか・・と筆者は驚いたが、こりゃ何を言ってもダメそうだから結局その数日後にインドネシア顧客に直接説明したところ、実は自分たちも彼にはなんか変なところがあるなとは思っていたのだが、ようやく正体が分かったよ・・と感謝され、晴れてサニー・パンは契約更新されずにお引き取り頂くことになったのだ。
ところが・・、アンドリューはサニー・パンは無実なのにも関わらず筆者の心無い告げ口が元で排除されたのだ・・という思いが払拭できなかった様で、元々気が合わなかったけれどもこれ意向もっとシックリといかなくなり、やがて他に良い職場が見つかったからと辞表を提出してきたのだが、アンドリューに行く先を聞いたらこれがニューライフとかいうマルチ商法・・。
まあ確かにこういう洗脳されやすい奴でないとこの手の業種は務まらないか・・。アンドリューは主宰者の口上にすっかり取り込まれて自分が非常に価値有るものを売っているのだ!と思い込み、親兄弟から親戚にクラスメイト、はては近所の友人から道端ですれ違った誰彼かまわず売り込みをかける様になったのである(筆者の所にも来たが追い払った)。
さてサニー・パンはその後別の会社から詐欺か横領で訴えられて再びお縄の身となったと聞いたが、奴はもともと頭の血の巡りは良い人間だから、塀の中でじっくり考えれば長い時間をかけて誰かに取りいろうとしてボロを出すより、短時間のうちに大人数を洗脳する方の才能に恵まれていることに気がついたに違いない。
マルチ商法に自己啓発セミナー、プロテスタント系牧師にテレビ伝道師。残念ながらサニー・パンみたいな野郎はこういった如何わしいビジネスには天賦の才能を発揮しそうだから、多分今でも人をたらしこんで肥え太っているのだろう。こういう野郎の本質を見抜くのは難しい事だが、余りにも耳に心地の良い事ばかり抜かす野郎がいたら要注意である。さもないとアンドリューのようになってしまうよ。
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